
星槎大学では、箱根キャンパスのグラウンドを舞台に、気象予報士・空の写真家として活躍する武田康男氏を特別講師に迎えた屋外型の特別授業を実施しました。テキストも板書も使わず、「空」と「星空」をそのまま教材とした本授業は、教員を目指す学生たちが「探究的な学び」を全身で体感する貴重な機会となりました。
小学校から高校まで貫かれる「探究」の重要性
現在、日本の学校教育において「探究」はすべての校種で中心的な位置を占めています。文部科学省の学習指導要領では、小学校・中学校における「総合的な学習の時間」、高等学校における「総合的な探究の時間」が定められており、それぞれ次のような目標が掲げられています。
【小学校・中学校】総合的な学習の時間
探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目指す。
具体的には、以下の3点が柱として示されています。
- 探究的な学習の過程において必要な知識・技能を身に付けること
- 実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現する力を養うこと
- 探究に主体的・協働的に取り組み、社会に参画しようとする態度を育てること
【高等学校】総合的な探究の時間
高等学校では「総合的な学習の時間」から「総合的な探究の時間」へと名称が変わります。目標も一歩深化し、「自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力」の育成が求められます。また、「新たな価値を創造し、よりよい社会を実現しようとする態度」という文言が加わることも高校段階の大きな特徴です。
さらに指導計画の取扱いにおいては、「自然体験や職場体験活動、ボランティア活動などの社会体験、ものづくり、生産活動などの体験活動、観察・実験、見学や調査、発表や討論などの学習活動を積極的に取り入れること」とも明記されており、知識の習得にとどまらない体験的な学びの充実が強く求められています。
小学校での「自己の生き方」から、高等学校での「自己の在り方生き方と社会の創造」へ——探究の深度は校種を重ねるごとに高まります。この一貫した流れを理解し、子どもたちに届けられる教師の育成が、これからの時代に強く求められています。
「探究を教える教師」は、自ら探究した経験が問われる
「探究とは何か」を言葉として知ることと、実際に探究するプロセスを体験として積み重ねることとでは、教壇に立ったときの実践力に大きな差が生まれます。
学習指導要領が求める「問いを見いだし、課題を立て、整理・分析して表現する」という学びのサイクルを、子どもたちの前で自然に引き出せる教師になるためには、自分自身がそのサイクルの中にいた経験が欠かせません。
星槎大学は、この認識のもとで教員育成カリキュラムを設計しています。在学中から多様な「本物の体験」に出会い、「学びのスイッチが入った瞬間」を自らの感覚として持てるよう、学びの環境を整えています。
教員免許取得を目指す、星槎大学ならではの取り組み
星槎大学は、教育・福祉・心理・スポーツなど多様な専門領域を横断しながら、子どもたちと向き合う教育者としての資質を磨いています。
この特色を生かし、本学では免許取得の課程そのものを「探究の体験の場」として位置づけています。今回実施した特別授業は、その取り組みの一つです。将来の教壇を見据えながら、学生自身が探究する体験を重ね、「子どもたちに探究を届けるとはどういうことか」を自らの感覚として体得することを目的としています。
特別講師:気象予報士・武田康男氏のプロフィール
武田 康男(たけだ やすお)
気象予報士・空の写真家・日本教育大学院大学非常勤講師
- 東北大学理学部地球物理学科 卒業
- 千葉県立高校にて長年にわたり地学を担当
- 第50次日本南極地域観測越冬隊員として昭和基地での観測業務に従事
- 著書:「楽しい気象観察図鑑」「世界一空が美しい大陸 南極の図鑑」(ともに草思社)ほか多数
- テレビ出演:「世界一受けたい授業」(日本テレビ系列)、「教科書にのせたい!」(TBS系列)ほか
雲・虹・雷・南極の空など自然現象を捉えた写真家としても広く知られており、子どもから大人まで「空の魅力」を伝え続けています。
「星と空が大好きで話が止まらない」と学生たちに笑顔で語りかける武田氏の授業は、科学の知識と、それを「問いに変える力」を同時に届けるものでした。
夕焼けが、そのまま教材になった

授業は夕暮れどきのグラウンドから始まりました。
武田氏は空を見上げながら学生たちに問いかけました。「雲は1層だけではないんです。上と下で動きが違うのに気づきますか?」
観察してみると、たしかに上空の雲と低い雲では流れるスピードが異なります。それを確認した学生たちは、自然とスマートフォンを取り出し、空を撮影し始めました。
「夕焼けは低い雲から始まって、高い雲ほど後からオレンジ色に染まります。一番高い雲が色づくのは、日没からおよそ15分後。今夜は、あと3分ほどで綿雲が夕焼けのピークになりますよ」
— 武田康男氏
武田氏の言葉に合わせて、学生たちはじっと空を見つめます。やがて低い綿雲が鮮やかなオレンジに染まり、続けて高い層の雲がゆっくりと色づいていきました。予告通りの空の変化を目にした学生たちから、静かな歓声が上がりました。
「知っている」と「自分の目で確かめた」の間には、大きな差があります。学習指導要領が示す探究のプロセス——「問いを見いだし、観察し、確かめ、表現する」——が、まさにこの瞬間に動き出していました。
望遠鏡が映し出した「問いの始まり」


夕暮れのフィールドワークが終わると、グラウンドに天体望遠鏡がセッティングされました。薄明のブルーに沈む空には、金星・木星・土星・月が並んで輝いており、学生たちは次々と接眼レンズを覗き込みました。
「土星の環が見える」「月のクレーターまでわかる」——望遠鏡を通して宇宙を実際に観察した学生たちは、一様に表情が変わりました。
知識として「土星に環がある」と知っていることと、それを自分の目で確認することはまったく別の体験です。その瞬間に生まれる「なぜ?」「もっと知りたい」という感情こそが、探究の出発点です。
武田氏は難解な専門用語を並べるのではなく、「見てください」「気づきましたか?」「どう思いますか?」というシンプルな問いかけを積み重ねながら、学生たちの好奇心を引き出していきました。その姿は、子どもたちの探究を引き出す「ファシリテーターとしての教師」のあり方を、身をもって示してくれるものでした。
授業後の学びの広がり——「探究の連鎖」を体感する
この授業の意義は、グラウンドでの体験にとどまりません。
帰宅後に再び夜空を見上げ、翌日の夕暮れ時に雲の層を観察し、天気予報の精度を自分で確かめてみたくなる——そうした「学びの連鎖」が起きることこそ、探究型授業が持つ最大の力です。
将来、自らが担任するクラスで探究の授業に取り組むとき、学生たちはこの体験を思い出すはずです。「あのとき空を見上げたら止まれなくなった。あの感覚を、自分のクラスの子どもたちにも届けたい」——その記憶と感覚が、探究型授業を設計するための原動力となります。
知識として「探究の定義」を暗記することではなく、「探究する体験」を持つこと。星槎大学が目指す教員育成の核心は、ここにあります。
箱根キャンパスの学びの環境について

今回の授業が行われた箱根キャンパスは、豊かな自然環境と山々の眺望に恵まれた本学のキャンパスです。都市部では実現しにくい、自然をそのまま教材とした体験型学習が展開できる環境として、フィールドワークや特別授業に積極的に活用しています。
箱根の夜空の暗さと広さは天体観測に最適な条件を備えており、今回の授業ならではの体験を可能にしました。
星槎大学が育てる「探究できる教師」
文部科学省が定める学習指導要領は、小学校から高等学校まで一貫して「探究的な見方・考え方」の育成を求めています。変化の激しいこれからの社会において、子どもたちに本当に必要なのは、正解を与えてくれる教師ではなく、一緒に問いを立て、考え続けてくれる教師です。
星槎大学では、教員免許の取得を目指す9割以上の学生が、在学中に多様な「本物の学び」と出会えるよう、引き続きカリキュラムの充実と体験型特別授業の実施に取り組んでまいります。
この授業で生まれた「探究の種」
- 夕焼けの順番を空で確かめた体験
- 望遠鏡で土星の環を自分の目で見た瞬間
- 箱根の夜空の下で芽生えた「なぜ?」という問い
これらの体験を持つ教師が、未来の教室で子どもたちの探究を引き出していきます。














