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「ゴールはなくてもいい」――元幼稚園教諭の私が保育園のシンポジウムでハッとさせられた、子どもが夢中になる探究のカタチ
こんにちは。昨年まで幼稚園教諭として子どもたちと関わっていた筆者です。現在は少し現場を離れていますが、幼児教育への関心は高く、今でも日々アンテナを張っています。
先日、駒澤大学で開催された一般社団法人日本保育連盟勉強会「保育政策シンポジウム『子どもが夢中になる保育』~豊かな育ちとは何か~」(2026年6月25日開催)に参加してきました。
保育の質の向上は、特定の資格(認定保育士など)を持つ人を増やすだけではなく、現場での多様な取り組みが必要であるという言葉から始まったこのシンポジウム。普段とは少し違う「保育園」を軸とした内容でしたが、そこで語られた事例や議論は、幼稚園・保育園という垣根を越えて、これからの乳幼児教育の神髄に触れる素晴らしいものでした。今回は、その濃密な内容と、私自身の気づきをWEB記事風にたっぷりとお届けします。
行政と大学がタッグを組む、東京の「すくわくプログラム」とは?
シンポジウムの基調講演では、東京都子供政策連携室の田中室長より、東京都の子ども政策についてと乳幼児期の非認知能力を育むための取り組み『東京すくわくプログラム』についてお話がありました。
小池知事の「子どもは未来そのもの」という言葉のもと、東京都では「チルドレンファースト」を掲げ、エビデンス(世界中から収集した情報やデータ)に基づいた先進的な子ども政策を進めているそうです。0〜2歳児の保育無償化などの効果もあり、東京都の出生数が10年ぶりにプラスに転じるなど、目に見える変化も起きていることが紹介されました。
そんな東京都が特に力を入れているのが、この『すくわくプログラム』です。
💡 『東京すくわくプログラム』とは?
東京都と東京大学が共同開発した、子どもの「非認知能力(自分を大切にする力、コントロールする力、高めようとする力、人と関わる心の力)」を育てるためのプログラム。現在、都内の島しょ部を除く54区市町村、約3,400の幼保施設(全体の約7割)で実践されています。
このプログラムの肝は、「大人が教え込む」のではなく、子どもたちが自分で発見し、好奇心を深めていくワクワク・ドキドキした体験(=探究活動)を充実させることにあります。自然をテーマにすることが多いそうですが、各園の強みを生かしてさまざまなテーマで実施されています。
これを導入した園では、先生たちが「子どもの発信行動」を意識して見るようになり、いつもと違う子どもの姿を発見するなどの変化が生まれています。また、家庭でも子どもが様々なことに疑問を持つようになり、保護者からも好意的に受け止められているそうです。
さらに驚いたのは、乳幼児期に関する政策として「子どもを事故から守る」ためのエビデンスベースの予防策やデータベース(AI機能付き)の公開、孤独を感じる親や子どもが気軽に相談できるメンターチャット「ぎゅっとチャット」の運営など、ハード・ソフト両面でのサポート体制が非常に手厚いことでした。
枠にとらわれない!先進的な保育園の「探究」事例
パネルディスカッション「子どもが夢中になる保育とは何か」では、地域や園の特性を活かしたリアルな実践報告がなされ、どれも興味深いものばかりでした。
① 豊島区(八木保育課長/西池袋第2保育園 田部園長)
多様性と寛容性をあわせもつ豊島区では、保育の質向上のために多職種や専門家が参加する事例検討などを行っています。 西池袋第2保育園では、4歳児が「光る家づくり」という造形活動に挑戦。蛍光絵の具を使って自由に描き、色々な形に切って段ボールに貼り、ビニールのトンネルをつなげて他クラスの友達を招待しました。大人が細かく指示しなくても、いつもと違う絵の具の様子を観察しながら、子ども自身のイメージがのびのびと広がったそうです。さらに、外部のアーティストを招いた素材ワークショップ(粘土にライトを当てるなど)も行い、普段の保育士だけの視点ではできないダイナミックな活動が展開されました。
② すみれ保育園(福生市 肥沼園長)
「子育てするなら福生市」と力を入れている地域で、114名の園児が探究活動を行っています。 昨年度から続く「五感に触れる」取り組みとして、0歳児の「ひかり」の環境設定から始まり、1歳児の「砂の感触や音」、2歳児の「土粘土(加水による変化への興味)」、3歳児の「壁に映る影の観察」、4歳児の「電子顕微鏡を使った落ち葉の観察」、5歳児の「街の中にある様々な形を自分たちでプレゼンする活動」まで、発達に合わせた見事な探究のプロセスが共有されました。
③ AIAI NURSERY(柴田施設長/ナビゲーター園)
定員50名ほどの園で、5歳児が「きもち」をテーマにした活動を行いました。「どうしてパトカーの光るところは赤なの?危ないから?」という、子どもの何気ない問いからスタート。子どもたちが撮った写真から聞こえる気持ちを本にしたり、喜怒哀楽を色や形で表現して最後に展覧会を開いたりしたそうです。この活動を通して、子どもたちが「自分の気持ちを安心して言葉にしていいんだ」と感じられるようになったというエピソードは、胸が熱くなりました。
また、昨今話題の「保育現場でのAIとの付き合い方」についても議論が交わされました。「世界中の雲の動きが見られる地球儀(アースボール)など、経験や興味を広げるツールとしてAIを使うのは良いが、それを保育者がどう拾うかが大切」「まずは五感で感じる実体験が原点であり、便利さだけに頼らず、守るべき保育の本質を見失わないようにしたい」という園長先生方の意見には、深く頷かされました。
元幼稚園教諭の私が激しく共感した「Q&Aのひとコマ」
シンポジウムの中での質問タイムで、現場の先生からのリアルな悩みに有識者(東京都子供政策連携室 田中室長)が答える場面がありました。そのやり取りが、私にとって非常に大きな財産となりました。
Q:「世界(アメリカ)」をテーマに取り組んだ際、ダンスや食べ物からお店屋さんへと活動が発展していった。この後、終着点(ゴール)をどうしたらいいか悩んでいる。
A:「終着点は必要ですか?幼児期の国際理解へのアプローチとして多様な取り組みでOKです」
また、別の「子どもたちがどう進むか分からない中で、予算をどう組めばいいか」という質問に対しても、「変更申請ができるから計画通りにいかなくても大丈夫」というアドバイスがありました。
私たちはどうしても、指導案を書く時やカリキュラムを組む時に「最終的なゴール(完成品や、大人が想定した成果)」を意識しすぎてしまいがちです。しかし、活動がどこに向かうか分からない不確実性や、そのプロセス(過程)の試行錯誤にこそ、子どもの成長のエッセンスが詰まっている。「ゴールは決めなくてもいい、途中で変わってもいい」という言葉に、心がスッと軽くなると同時に、ハッとさせられました。
考察:大人の事情の「カリキュラムありき」になっていないか?
今回の話を聴きながら、私はこれまでの自分の経験や、幼児教育界全体の課題について思いを巡らせていました。
正直なところ、今の幼児教育・保育の現場には、「親のウケが良いから」「保護者が希望するから」「園の特色(アピール)になるから」という理由で、子どもの実態や興味を置き去りにした、大人が決めた「カリキュラムありき」の保育が展開されてしまう側面があるのではないでしょうか。また、大人の事情として、あらかじめ時間割や流れをカチッと決めておいた方が、集団をコントロールしやすいという側面もあります。
一般的に幼稚園は「教育の場」としての色彩が濃く、小学校への接続を強く意識するあまり、どうしても「集団での一斉活動」が多くなりがちです。決められた時間の中で、全員で同じ活動をこなす難しさを感じる場面も少なくありません。
一方で、今回お話を聴いた保育園の事例は、長時間の生活の場であるからこそ、より子どものありのままの姿や、何気ない一言(声)をじっくりと拾い上げ、そこから活動を発展させていく柔軟さがありました。環境設定のアプローチという面では、やはり幼保でまだ少し違いがあるのかもしれません。
ですが、子どもの育ちにおける本質は同じはずです。 子どもは大人が想像している以上に柔軟で、多様な発想を持っています。大人の都合でその芽を摘んでしまってはもったいないのです。
保育者に必要なのは、単なる保育・教育の知識だけではありません。子どもの行動、声、表情から「今、この子はここで何を感じているのか」を敏感に読み取る力。そして、子どもと同じ目線に立ち、大人の都合で制限せず、一緒にワクワクドキドキしながら環境を作っていく姿勢なのだと、改めて強く感じました。
おわりに:社会全体で子どもを育てる時代へ
シンポジウムの結びにもあったように、保育の質の向上は、現場の先生たちだけが頑張ればよいものではありません。豊島区の事例のように専門家やアーティストが手を貸してくれたり、他園と実践を共有し合ったり、そして何より地域や社会全体が子どもを「未来そのもの」「宝物」として温かく見守り、育てる環境が必要です。
子どもの「なんで?」「どうして?」に大人が一緒に耳を傾け、ありのままの姿を面白がれる社会へ。
現場を離れた今だからこそ、客観的に「子どもの主体性を信じる保育」の尊さを再確認することができました。現役の先生方も、これから保育を目指す方も、大人の作った枠を少し外して、目の前の子どもと一緒に「探究」を楽しんでみてはいかがでしょうか。
【筆者プロフィール】
中山千智(なかやま ちさと)
学校心理士
約10年の幼稚園教諭経験を経て、星槎大学大学院にて専門職修士を取得。
多様性のある乳児・幼児・児童の成長、安心できる学習・保育環境を目指して活動中。
本内容にご興味をお持ちの方は、日本保育連盟サイトの報告も是非ご覧ください。
子どもの「なぜ」が保育を変える~東京都後援、保育政策シンポジウムに100人超が参加~
https://nihoren.org/news/information/20260707/
一般社団法人 日本保育連盟
https://nihoren.org/
星槎大学は、日本保育連盟と連携し認定保育士(履修証明プログラム)を開講しています。
https://gred.seisa.ac.jp/public/program/














