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2026/08/28
  • 教育

学びの多様化とは何か?副学長が語る「多様性の包摂」という誤訳

シンポジウムレポート

2026年7月22日、星槎大学は公開シンポジウム「学びの多様化学校から考える、これからの学びのかたち」を開催いたしました。会場となった駒澤大学 深沢キャンパスとオンラインを合わせ、100名を超える皆さまにご参加いただきました。誠にありがとうございました。

ファシリテーターを務めた本学大学院の石元悠生教授は、冒頭でこう問いを立てました。

「学びの多様化学校というものは、果たして不登校の子どものための特別な学校なのか。それとも、これからの学校教育の未来を示すかたちなのか。そのあたりを、今日は専門家のお三方にお伺いしていきたいと思っています」

本記事は、このシンポジウムのうち、本学副学長・西永堅教授の講演を中心にお伝えするシンポジウムレポートです。テーマは、いま教育の現場で急速に重みを増している「学びの多様化」という言葉そのものにあります。

結論から申し上げると、西永副学長の講演は「よく使われているけれど、実は誤解されている言葉」を一つずつ解きほぐしていく時間でした。「多様性の包摂」は誤訳である。特別支援学校はインクルーシブ教育ではない、というのは誤解である。そして——みんなが同じ教室で学ぶことは、インクルージョンではない

読み終える頃には、「学びの多様化」という言葉の輪郭が、ずいぶん違って見えているはずです。

目次

  1. なぜ今、「学びの多様化」なのか
  2. 「多様性の包摂」は、実は誤訳です
  3. 発達に個人差があるのは、当たり前のこと
  4. 不登校の理由、1位は「無気力」——学習性無力感はこうして生まれる
  5. いま起きている、4つのパラダイムシフト
  6. 通常の学級で学ぶことが、インクルージョンではない
  7. 「頑張ればできる」ではなく、「できることなら頑張れる」
  8. 選べること。そして、選べる情報があること

お話しした人

星槎大学 副学長 西永堅

星槎大学 副学長/大学院教育学研究科 研究科長・修士課程課程長
西永 堅(ニシナガ ケン)

専門分野:臨床心理学、応用行動分析学、特別支援教育、早期療育、家族支援、インクルージョン
担当科目:星槎学/発達障害教育総論/発達障害の判定とその教育的対応Ⅰ・Ⅱ/知的障害教育指導法
プロフィール・研究業績等

1. なぜ今、「学びの多様化」なのか

講演の内容に入る前に、この言葉が注目されている背景を整理しておきます。

不登校の児童生徒は、35万人を超えました

文部科学省の令和6年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、小・中学校で年間30日以上欠席した不登校の児童生徒は353,970人12年連続で増加し、過去最多となりました。

区分 令和6年度 前年度
小学校 137,704人 130,370人
中学校 216,266人 216,112人
合計 353,970人(過去最多) 346,482人

出典:文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(2025年10月公表)

ただし、注目すべき変化もあります。増加率は前年度の15.9%から2.2%へと大きく鈍化しました。数は増え続けているものの、その伸びは明らかに緩やかになっています。

「学びの多様化学校」は、全国84校になりました

こうしたなかで整備が進んでいるのが、学びの多様化学校です。

項目 内容
どんな学校か 不登校児童生徒等の実態に配慮した、特別の教育課程を編成する学校。通常の教育課程の基準によらない編成が認められます
制度の開始 平成17年7月〜。文部科学大臣の指定により実施できます
名称の変更 2023年に「不登校特例校」から「学びの多様化学校」へ改称。制度の内容に変更はありません
設置数 全国84校(2026年4月時点)。うち25校が同年4月に新規開校しました
今後 文部科学省は将来的に全国300校を視野に入れ、マイスター派遣事業等で設置を後押ししています

出典:文部科学省「学びの多様化学校について」

そして——この84校のうち5校を運営しているのが、星槎グループです。

本学が母体とする学校法人は、20年以上前から学びの多様化学校(当時の不登校特例校)に取り組んできました。星槎大学自身も、通学制ではない通信制大学という、ひとつの多様な学びの場です。西永副学長は、その位置づけをこう説明します。

「私が務めている星槎大学も通信制大学なわけで、通学制ではないけれども、また1つ多様な学びの場を創出しているというところです。星槎グループも、元々は通信制高校という1つの多様な学びの場を広げていましたし、今は学びの多様化学校として5つの学校を運営しています

制度を外から論じるのではなく、当事者としての実感から語られた講演でした。

2.「多様性の包摂」は、実は誤訳です

ここからが、講演の本題です。


西永堅副学長 講演スライド「多様性とインクルージョン」

「多様性」という言葉は、いまや教育の場で聞かない日がありません。しかし西永副学長は、その入り口でいきなり立ち止まります。

「現在、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンというのが『多様性の包摂』という風に訳されてしまっているんですけれども、それって『and』の訳じゃないよね、というところなんです。その発想だと『多様性と公平性の包摂』という話になってしまう。そもそも、インクルージョンということ自体が多様性なんですよというところを、ぜひご理解いただきたいなと思うんですね」

言葉の細かい話に聞こえるかもしれません。しかし、ここがずれていると、その先の議論がすべてずれていきます。

よくある理解 本来の意味
DEIの訳し方 多様性を「包摂する」(多様性 + 包摂) インクルージョンそのものが多様性。並列する2つの概念ではありません
特別支援学校 インクルーシブ教育ではない(分離である) その子のニーズに応じた学びであれば、個別最適な学びの1つです
対象 障害のある子どもへの配慮 障害のあるなしに関わらず、1人ひとりの発達に合わせた教育システムをつくること
目指す形 みんなが同じ教室で学ぶこと 多様な学びの場が用意されていること(詳しくは第6章で)

西永副学長はもともと、知的障害を中心とした発達の遅れがある子ども——いわゆる発達障害のある子どもたちの支援を専門としてきた研究者です。その立場から、こう続けます。

「当然、特別支援学校も個別最適な学びの1つだと考えているんですけれども、なかなか『特別支援学校はインクルーシブ教育ではない』みたいな誤解が広がっている。本当は障害のあるなしに関わらず、1人ひとりの発達に合わせた多様な教育システムを作っていきましょうというのが、ダイバーシティ・インクルージョンなんだというところです」

この論点は、西永副学長が別のコラムでも取り上げています。あわせてお読みください。
インクルーシブ教育は二刀流?

3. 発達に個人差があるのは、当たり前のこと

では、なぜ「1人ひとりに合わせた学び」が必要なのか。西永副学長は、専門である発達の話から説き起こします。

「そもそも人間の発達には個人差があるということは、もう十分わかっているわけですよね。小学校2年生でも3年生の平均より背が高い子もいれば、小学校1年生の平均より小さい子もいる。身長や体重の発達に個人差があるのに、運動の発達、言葉の発達、数の発達、文字の発達に個人差がないはずがないんです。ところが我が国は、1年生になったら100までの数、2年生になったら九九、というように、年齢で課題が決まっている

ここで西永副学長は、参加者にひとつ問いかけました。

三角形が描けるようになるのは、何歳だと思いますか

図形 模写の通過率が50%になる年齢
三角形 4歳8ヶ月
菱形 6歳2ヶ月

※発達検査における通過年齢の目安です。講演では「やや古いデータ」との前置きがありました。〈出典の追記をお願いします〉

丸や四角は早くから描けるようになります。しかし三角形は、3本の線を結びつけなければならず、途端に難しくなる。菱形はさらに難しく、通過率が半分に届くのは6歳2ヶ月です。

ここに、日本の学校制度の構造的な問題が現れます。

「4月生まれ、5月生まれの子はほぼ7歳で小学校に入ってくるので、ほぼ全員が菱形を描ける状態で入ってくるかもしれない。でも3月生まれの子は、ようやく6歳になったばかりですので、その半分以上が菱形を描けない状態で小学校に入ってくる。それなのに『1年生になったから、みんな一斉に自分の名前を書いてみましょう』となった時に、簡単な子は『できるできる』と言って宿題もすぐ終わる。でも難しい子は、いつまでやってもできないから宿題をいっぱい出される。つまずきは、小さな時から始まっているんです」

同じ「IQ100」でも、同じ能力ではありません

もうひとつ、あまり知られていない指摘がありました。

「小学校1年生で、4月生まれでIQ100の子がいて、3月生まれでIQ100の子がいたら、同じ1年生でIQ100だから同じ能力かと言えば、実は1年の差があるんですよ、ということを、ぜひご理解いただくと」

知能指数は同じ年齢集団のなかでの相対的な位置を示す数値です。したがって、月齢が違えば、同じ数値でも到達している発達段階は異なります。

なお西永副学長は、統一された学習指導要領そのものを否定しているわけではありません。

「もちろん、そういった統一された学習指導要領があったからこそ、日本が先進国として世界で活躍できたという、いいところもあるんです。ただ、その学習指導要領に合わなかった子どもたちにも、個別最適な学びが必要なんだということです」

4. 不登校の理由、1位は「無気力」——学習性無力感はこうして生まれる

発達の個人差を放置すると、何が起きるのか。ここで話は、不登校の原因に接続します。

不登校の理由として、私たちはいじめや対人関係を思い浮かべがちです。しかし実際の調査結果は違います。

「不登校の原因って、我々はいじめとか対人関係が大きな理由と考えがちなんですけれども、1位は無気力、やる気がないというところなんですね」

令和6年度の調査では、無気力に続いて生活リズムの問題、不安と並びます。令和4年度までは「無気力・不安」が同一のカテゴリーで集計され、それだけで50%を超えていました。

なぜ「無気力」と「不安」が、ひとつのカテゴリーだったのか

西永副学長は、この2つが地続きであることを、学習性無力感という概念で説明します。2000年に米国心理学会の会長を務めたマーティン・セリグマンが提唱した理論です。

「セリグマンさんが言っているように、これは人間だけじゃなくて動物もそうなんですけれども、自分ができない課題を出されていくと、どんどんどんどん不安になって、不安が募っていくと心がポキッと折れてしまって、無気力になってしまうんだ、というところです」

整理すると、こうなります。

できない課題を出され続ける

不安が募る

心が折れる

無気力

つまり「やる気がない」という状態は、やる気を失うだけの経験を積み重ねた結果だということです。順序が逆なのです。

これは、子どもだけの話ではありません

「これは実は子どもたちだけではなくて、教員とか、福祉のお仕事をされている方がバーンアウトされるのも、やはり過度なお仕事の負担が強いと、より不安になり、ポキッと心が折れてしまう。だからこそ年齢で決めるのではなく、その子の発達に合わせた多様な学びの場がやっぱり必要なんだというのが、本来のインクルーシブ、特別なニーズ教育の発想なんです」

最も効率よく学べるのは、正答率85%のとき

では、どのくらいの難しさが適切なのか。西永副学長は、ひとつの目安を挙げました。

人間が効率的によく学べるのは、正答率85%の問題が出されているというところです。簡単すぎても飽きちゃうんですよね。でも難しすぎて、毎回テストをやっても5点とか10点では、さきほどの学習性無力感になってしまう」

※〈出典の追記をお願いします〉

簡単すぎれば飽き、難しすぎれば折れる。その子にとっての85%がどこにあるかは、1人ひとり違います。だからこそ、一律の課題設定では届かない子どもが出てきます。

発達障害のある子どもへの学びの支援については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
発達障害のある子どもの学びを支えるために

5. いま起きている、4つのパラダイムシフト


4つのパラダイムシフトを示した講演スライド

▲ 講演では、4つの転換がスライドで示されました

特別支援教育とインクルーシブ教育をめぐっては、ここ20年で大きな転換が起きています。しかしそれが、まだ十分に共有されていないと西永副学長は言います。

パラダイムシフトが起きているんですけれども、それがなかなか——我々の努力不足だと思うんですけど——伝えられていないんです」

これまで これから 何が変わったのか
バリアフリー ユニバーサルデザイン あとから障壁を取り除くのではなく、はじめから誰もが使える設計にする
ノーマライゼーション インクルージョン 「ノーマル」という言葉が、かえって障害のある人を「ノーマルではない」と位置づけてしまった
イコーリティ(平等) エクイティ(公平) みんなに同じものを配るのではなく、その子のニーズに合わせる
ニューロダイバーシティ
=発達障害のこと
ニューロダイバーシティ
=みんな違う
障害のあるなしに関わらず、すべての人の神経発達に多様性がある

「ノーマライゼーション」は、もう使われていません

「実はノーマライゼーションというのは、2006年の障害者権利条約でも使われていないんです。ノーマライゼーションが果たした役割は非常に大きかったんですけど、結局『ノーマル』という言葉が、逆に障害のある方たちを『ノーマルではない』という話にしてしまった。そうではなくてインクルージョンなんですよということです」

ニューロダイバーシティは、発達障害の言い換えではありません

4つ目の転換について、西永副学長はとくに強い調子で誤解を訂正しました。

「これもよく誤解されがちなんですが、経済産業省のホームページも、ニューロダイバーシティということと発達障害のことを指すかのように書かれているんですけども、そうじゃないんですよと。発達障害があるなしに関わらず、みんなそれぞれ神経発達には多様性があるんですよ、ということなんです」

この言葉は、1990年代にオーストラリアの社会学者ジュディ・シンガーが提唱しました。発想の元になったのは、バイオダイバーシティ(生物多様性)です。

「生物多様性というのは、人間以外の動物に多様性があるわけじゃなくて、すべての生物に多様性があるということです。ですからニューロダイバーシティも、決して発達障害うんぬんではなくて、みんな違うんですよという考え方なんだ、というところです」

そしてインクルージョンは、障害だけの話ではありません

「教育も公平な制度に。みんなが同じ教育ではなくて、その子のニーズに合わせて。インクルージョンは決して障害のあるなしだけではなくて、性別や人種、経済状況やさまざまなニーズの違いをちゃんと認めて、その子に適切な個別の学びを目指していく特別なニーズ教育なんだというところを、お伝えできればと思っております」

6. 通常の学級で学ぶことが、インクルージョンではない

ここが、この日もっとも議論を呼んだ論点でした。

質疑応答で、会場の参加者からこんな声が上がりました。「学びの多様化学校が増えることはいいけれど、特別支援学級や不登校の子が通常の学級からどんどん離れていくのは、インクルージョンから離れていっているのではないか。それは残念に思う」——。

これに対する西永副学長の答えは、明確でした。

「私は、通常の学級で学ぶことがインクルージョンとは思っていません」

「実際、今デンマークとかイギリスとかは、むしろ特別支援学校で学ぶ子たちが増えているんですね。分離教育がいいというわけではないんですけれども、その子に合わせた教育が広がっていくのであれば、通常の学級だろうが、特別支援学級だろうが、特別支援学校だろうが、それはその子のニーズに応じた教育なのかなと思うんです」

そのうえで、現在の議論に潜む矛盾を指摘します。

「なぜか『みんなで通常の学級で学ばなきゃいけない』という話になってしまっている。その一方で『学びの多様化学校はどんどん増やしていきましょう』と。そこはすごく矛盾していると思うんですよね。学びの多様化学校だって、学習指導要領によらない柔軟な教育ができるわけですから、むしろ特別支援学校こそ、もっと柔軟な教育ができるはずなんです」

そもそも「普通教育」とは何か——憲法26条に戻る

議論は、憲法の条文にまでさかのぼりました。

日本国憲法 第26条

すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。

「『その能力に応じて』ということは書いてあるわけです。そして『普通教育を受けさせる義務を負う』——この普通教育とは何ぞ、というところです。よく地域の学校のことを『普通学校』とか『普通学級』という場合があるんですけど、本当はこの普通教育の中に、当然、特別支援学級も特別支援学校も含んでいる。もっともっと普通教育というところが広がればいいのかなと思います」

ここから導かれる結論が、講演の核心でした。

普通の教育に戻すのではなくて、普通教育というものがどんどん拡大していくべきなのかなと思っています」

「もとの場所に戻す」のではなく、「もとの場所のほうを広げる」。主語が、子どもから学校へと入れ替わっています。

教育課程特例校制度は、不登校のためだけの制度ではありません

もうひとつ、制度についての誤解も解かれました。学びの多様化学校を支えている教育課程特例校制度は、不登校対応に限られた仕組みではありません。

「教育課程特例校制度というのは、決して不登校特例だけではなくて、スーパーサイエンスハイスクールとか、スーパーグローバルハイスクールとか、理系に特化するとか、外国語に特化するとか、もっともっと学習指導要領を柔軟にできる制度があるんだ、ということです。より子どものニーズに応じたいろんな学校ができていけばいいんじゃないかと、私は考えております」

ちなみに、通信制高校についても同じことが言えます。かつては偏見の対象でしたが、いまや高校生の10人に1人が通信制で学んでいます。多様な学びの場は、すでに例外ではなくなっています。

7.「頑張ればできる」ではなく、「できることなら頑張れる」

クロスセッションで、ファシリテーターの石元教授から「学びの多様化学校における子どもの回復や成長は、何によって捉えるべきか」という問いが投げかけられました。

西永副学長は、日本の教育に根強く残る精神論から答え始めます。

「我々日本って、どちらかというと精神論が強くて、頑張ればできるんだ、要するにできない子は頑張ってないんだ、という話になっていたと思うんですけど。私はそれを『逆認知』と呼んでいるんです。本当は逆で、できることなら頑張れるんだ、ということです」

短い言葉ですが、順序が完全に入れ替わっています。

これまでの見方 西永副学長の見方(逆認知)
頑張れば、できる できることなら、頑張れる
できないのは、頑張っていないから 頑張れないのは、できない課題を出され続けたから
変えるべきは、子どもの姿勢 変えるべきは、課題の設定(=学びの場)

第4章の学習性無力感と、第3章の発達の個人差が、ここでひとつにつながります。「できることを出す」という設計そのものが、支援なのです。

8. 選べること。そして、選べる情報があること

多様な学びの場が増えれば、それでよいのか。シンポジウムの後半は、この問いに移りました。

他者が勝手に決めるのは、やめましょう

西永副学長がここで挙げたのが、パターナリズムという言葉です。本人のためを思って、周囲が本人に代わって決めてしまうことを指します。

「我々のところでは、結局そのパターナリズムはやめていきましょうと。パターナリズムというのは、行政が進路先を決めていたとか、保護者が子どもの決定をしていたということです。そうではなくて、自分で決めるのは難しいかもしれないけれども、他者が勝手に決めるのはやめましょう、というところです」

そのために、星槎グループは選択肢そのものを増やしてきたと言います。通信制高校、学びの多様化学校。もともとは塾から始まったグループです。

「塾とかフリースクールとか、いろんな辺の学びのところがあれば、子どもたちはそこで生き生きできるのかな。みんなが普通を目指すのではなくて、そもそも普通とは何かということで、ダイバーシティという言葉が現在使われてきているのかなと思いますので、我々としてはやっぱりモデルをつくっていけるといいのかなと考えております」

ただし、選択肢があっても選べるとは限りません

西永副学長は同時に、選択の前提となる条件にも触れました。

自己決定をするためには、それなりの情報がないと選択できないですし、今日は東京ということなので、さまざまな学校を選ぶことができるんですけれども、地方部では、そもそも地域の学校自体がどんどん1クラスになっていったりして、選択肢がなかったりするというところはあるのかなと」

この点について、シンポジウムに登壇された東京都教育委員会の坂本雅彦教育長は、行政の立場から次のように述べています。

「昔からよく言われますけど、文化資本論という言い方もします。結局、親が裕福だったり、同時にそれによってさまざまな情報を速やかに、素早く、正確に把握できる。こういう場合には、子どもに選択の材料というのは不断に提供できるんですね。ところが世の中、そういう家庭ばかりではないわけです。(中略)子どもそのものは、スマホがいろいろ広がったと言っても、やはり情報の取り方には格差がありますから、そこは親・保護者、こうした方々のサポートは絶対に必要となると思います」

(東京都教育委員会 坂本雅彦 教育長)

専門の異なる二人が、別々の角度から同じ場所に着地しています。選択肢を増やすことと、その情報を届けることは、セットでなければ意味を持ちません。

当日の反応

質疑応答では、会場から鋭い問いが相次ぎました。

「多様なニーズを持つお子さんを受け止める場所が増えることによって、いわゆる普通の学校と言われる学校が、インクルーシブな学校になっていくことを、ある意味で免除されているような状況が生じているのではないか」——本学関係者からのこの指摘に、坂本教育長は「学校の在り方は、卒業してくる子どもたちを社会がどう待っているかに規定される。社会の在り方を意識の面から変えていかないと、学校に求められるものも変わっていかない」と応じました。

明快な答えの出ない問いを、明快な答えがないまま持ち帰る。そういう時間になりました。

まとめ:学びの多様化とは、「普通」を広げること

講演の締めくくりに、西永副学長はこう語りました。

「ダイバーシティということで、みんな違って、みんないいというところで、それぞれの目標があっていいのかなと。3年生だから分数ができなきゃいけないとか、6年生になったら歴史ができなきゃいけないとか、中学校1年生になったらマイナスの概念は理解できなきゃいけない、ではなくて。それぞれの発達をしっかりと尊重できることが、ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョンなのかなと思います。なので、学びの多様化をやっぱり進めていきたいなと思っております」

この日の内容を整理します。

  • 「多様性の包摂」は誤訳。インクルージョンそのものが多様性であり、並列する2つの概念ではありません
  • 発達に個人差があるのは当たり前。三角形の模写は4歳8ヶ月、菱形は6歳2ヶ月。同じ1年生・同じIQ100でも、そこには1年の差があります
  • 不登校の理由の1位は「無気力」。できない課題 → 不安 → 心が折れる → 無気力、という学習性無力感の構造があります
  • 4つのパラダイムシフトが起きています。バリアフリー→ユニバーサルデザイン/ノーマライゼーション→インクルージョン/平等→公平/ニューロダイバーシティは発達障害の言い換えではない
  • 通常の学級で学ぶことが、インクルージョンではありません。その子のニーズに応じた学びであれば、場所は問われません
  • 「普通教育に戻す」のではなく、「普通教育を拡大する」。主語は子どもではなく、学校の側にあります
  • 選択肢を増やすことと、その情報を届けることはセットです

冒頭で石元教授が立てた問い——学びの多様化学校は、不登校の子どものための特別な学校なのか。それとも、これからの学校教育の未来を示すかたちなのか

この日の議論をたどると、答えは後者に傾きます。シンポジウムの最後に石元教授が置いた言葉が、それを言い当てていました。

「子どもが学校に合わないのか。学校が子どもに合っていないのか」

続編:では、その現場では何が起きているのか

本記事では、西永副学長の講演から「学びの多様化」という考え方を整理しました。続編では、学びの多様化学校を20年運営してきた現場の話をお伝えします。星槎グループ本部長で、文部科学省の学びの多様化マイスターを務める蓮田亮大氏の講演です。

学びの多様化学校とは——20年やってきた現場が語る、「やる気」の前にあるもの

星槎大学で、「学びの多様化」を学ぶ

星槎大学は2004年に開学した、通信制課程のみの大学です。共生科学部 共生科学科の1学部1学科で、正科生・科目等履修生を合わせて幅広い年代の方が学んでいます。建学の理念は「誰一人取り残さない」——本記事でご紹介した考え方は、本学の教育課程そのものに組み込まれています。

1. 特別支援学校教諭免許状を、通信制で取得する

本学では、幼稚園/小学校/中学校(社会・保健体育・英語)/高等学校(地理歴史・公民・保健体育・英語)/特別支援学校の教員免許状の取得を目指せます。

すでに教員免許をお持ちの現職の先生が、働きながら特別支援学校教諭免許を追加取得するケースも数多くあります。スクーリングはWebライブ・オンデマンド・会場の3形式から選べ、科目等履修生としての受講も可能です。

取得できる教員免許状について詳しく見る

2. 「学びの多様化支援士」履修証明プログラム

不登校に直接アプローチする専門性を、6ヶ月・完全オンラインで体系的に学ぶプログラムです。不登校の未然予防から対応・支援まで、全10講座63時間で構成されています。

項目 内容
形式 完全オンライン(オンデマンド+Webライブ)
期間 6ヶ月(1月/4月/7月/10月の年4回開講)
内容 全10講座63時間。不登校の現状と背景/個別支援計画の立案/心理的支援/家族支援/代替的な教育方法/アセスメント技法 ほか
出願資格 高等学校を卒業していること
修了時 学校教育法第105条に基づく履修証明書を発行

学びの多様化支援士について詳しく見る

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※本記事は、2026年7月22日に駒澤大学 深沢キャンパスおよびオンラインで開催された星槎大学公開シンポジウム「学びの多様化学校から考える、これからの学びのかたち」の内容をもとに構成したシンポジウムレポートです。登壇者の発言は、読みやすさのため一部を整理しています。統計・制度の情報は2026年8月時点のものです。

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